「住民税の申告」で地方税を節税する方法

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税金の申告で「確定申告」以外に、お住いの市区町村の窓口に提出する「住民税の申告」制度があるをご存知でしょうか?

年末調整や確定申告をしている場合、これらの国税の情報を利用して住民税が計算され、「住民税の申告」は必ずしも必要ではないので、忘れられがちです。

しかし、上場株式等の配当所得や譲渡所得がある場合、この記事を参考にして「住民税」をはじめとする「地方税」額を試算して、節税に有利な課税方式を検討して「住民税の申告」をすることをおススメします。

というのは、「住民税の申告」で「課税方式」を選択することにより、「住民税」や「国民健康保険料」といった地方税を低く抑えられる場合があるからです。

確定申告で「住民税の申告不要」が選択可能

上場株式等の配当所得等がある場合、確定申告書(e-Tax)で「住民税に関する事項の入力」で住民税の「申告不要」を選ぶことが可能です。

注意:「上場株式等の配当所得等に係る課税方式」の令和6年度(令和5年分)よりの変更

令和4年度税制改正で「上場株式等の配当所得等に係る課税方式」が次のように変わることが明確化になりました。(詳細は「令和4年度税制改正の大綱」を参照)

(地方税)
(1)上場株式等の配当所得等に係る課税方式
① 個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得
の課税方式を所得税と一致させることとする。
② 上記①に伴い、次の措置を講ずる。
イ 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用要件が所得税
と一致するよう規定の整備を行う。
ロ その他所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和6年度分以後の個人住民税について適用するとともに、
所要の経過措置を講ずる。

令和4年度税制改正の大綱より

つまり、この決定により、現行制度で可能な「所得税と個人の住民税で異なる課税方式を選択」が来年(2024年の確定申告)以降できなくなります。

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「住民税の申告」と「確定申告」の違い

「住民税」とは?

「住民税」の地域による名称の違い

「住民税」は地方税の一種で「都道府県税」と「市区町村税」の両方を合わせたものです。

よって、下記のように都道府県、市区町村によって住民税の名称が異なります。

「都道府県」に納める税の名称
  • 都:都民税
  • 道:道民税
  • 府:府民税
  • 県:県民税

「市区町村」に納める税の名称
  • 市:市民税
  • 区:区民税
  • 町:町民税
  • 村:村民税

お住いの地域によって地方自治体のホームページなどで「市区町村税」と「都道府県税」の組み合わせで「住民税」を次のような別名で表現されている場合があります。

「住民税」の別名の例
  • 東京都の場合:「区民税・都民税」
  • 北海道の場合:「市民税・道民税」
  • 大阪府の場合:「市民税・府民税」
  • 県の場合:「市民税・県民税」

「住民税の申告」とは?

「住民税の申告」とは、申告する年の1月1日に住民登録している市区町村の税務窓口で前年1年間の所得額を申告することです。毎年、確定申告と同じ時期に申告受付(2月中旬~3月中旬)をしています。

「住民税の申告」の特徴

この申告により「都道府県税」と「市区町村税」の両方の税額が決まります。市区町村のホームページ等で公表されている計算方法で、「住民税」だけでなく、その他の一部の「地方税」の税額も決定され、告知された期限までに税金を納める必要があります。

確定申告による国税と違って、「地方税」は払いすぎても還付金はありません。(原則として、一度払った税金は戻ってきません。

「確定申告」とは?

「確定申告」とは、国税庁のホームページで示されている方法で前年1年間の所得額を税務署へ申告することにより「所得税」を確定させ、「国税」の支払いの過不足を調整するものです。

「確定申告」の特徴

所得からの源泉徴収で税金の払いすぎがあった場合、還付金として過払い分の税金が戻ってきます。また、税金を支払っていない、または、足りない場合、支払うべき税額を納める必要があります。

国税と地方税の関係

給与所得者の「年末調整」や「確定申告」があった場合、所得額や世帯構成の情報は、まず最初に「国税」である所得税額を算出・決定するのに使われれます。

次に、これらの所得額や世帯構成の情報は国から市区町村に送られ、「地方税」である「住民税の申告」が別途なければ、国から送られた情報に基づいて市区町村で地方税額を決定するのに利用されます。

したがって、国が所得税額を決定する情報をすでに持っている場合、「住民税の申告」は必ずしも必要でありません。

しかし、上場株式等の譲渡所得や配当所得がある場合は、所得税である「国税」と住民税などの「地方税」とで異なる課税方式を選択することができる(2024年の確定申告では課税方式の選択ができなくなります。前述の「注意」参照)ので、「住民税の申告」をすることで節税ができる場合があります。

ちょっとした豆知識

2017年度(平成29年度)の税制改正で、特定上場株式等の配当所得や上場株式等の譲渡(源泉徴収がある特定口座)に係る所得に関して、2017年4月1日から所得税と異なる課税方式により(個人)住民税を課税できることが明確化されました。

つまり、「確定申告」と「住民税の申告」で異なった「課税方式」を選択することが合法的にできるようになったのです。

住民税の申告

住民税の申告をする理由

「国税」と「地方税」では税率や控除額など税額の計算方法に違いがあり、課税方式に依存する要因があります。

一部の「地方税」の計算は「住民税」の課税方式に準ずるので、「住民税の申告」で「課税方式」を選択することで、「住民税」だけでなく、国民健康保険料(社会保険に加入していない場合)などにも影響を及ぼします。したがって、「住民税の申告」をする場合、「住民税」だけでなく、その他の「住民税の申告」で影響を受けるその他の「地方税」も試算して、都道府県や市区町村に支払う地方税の総額を低く抑えるように配慮しなければなりません。

住民税を申告して節税になる例

あなたに上場株式等の譲渡所得等や上場株式等の配当所得等の所得額があり、「源泉徴収あり」の「特定口座」で管理されている場合、口座を管理している証券会社により、これらの所得額から所得税や住民税が差し引かれているので、原則、この件に関して「確定申告」や「住民税の申告」は不要です。

しかし、次の場合は、「確定申告」により所得税(国税)を節税することができます。

確定申告で節税になる例
  • 課税所得が695万円より低くく、確定申告で「総合課税」を選択することにより「申告分離課税」の税率より低い累進課税率を適用できる場合
  • 上場株式等の譲渡所得等や配当所得等に「申告分離課税」を選択することにより損益通算等の控除の適用で課税所得を低くすることが可能な場合

ところが、「確定申告」で「総合課税」または「申告分離課税」を選択することによって、上場株式等の譲渡所得等や上場株式等の配当所得等の所得額が「地方税」に算入され、「住民税」や国民健康保険料が上がってしまう場合があるのです。

そこで、「所得税」の「確定申告」とは別に、課税方式(「申告分離課税」または「申告不要」)を選択して「住民税の申告」をすることにより節税ができる場合があるのです。

住民税の申告期限

住民税の申告は、通常、確定申告と同時期で2月中旬から3月中旬までです。

  • 地域によって差異がある場合があるので、該当する市区町村の窓口、または、ホームページでご確認することをおススメしますが、2023年提出分(令和4年分)の場合、 住民税の申告期間は2月16日から3月15日であるところが多いです。

6月上旬から中旬(市区町村によって異なる)に普通徴収の納税通知書、または、特別徴収税額決定通知書が送付されると、基本的に地方税の税額を「課税方式」を変更する「住民税の申告」で変えることはできません。

「住民税の申告」で影響を受ける地方税の種類と概要

住民税

住民税は都道府県税と市町村税の両方を含み、「所得割」と「均等割」という2つの税額要素の和になっています。

  • 住民税 = 所得割額 + 均等割額

所得割の計算では、次のように課税方式で税率が異なっており、「申告分離課税」が「総合課税」より所得割の税率が低くなっています。そのため、「申告分離課税」を選択する方が節税に有利な場合が多いのです。

  • 総合課税:10%
  • 申告分離課税:5%

住民税の所得割で使用される課税所得額は、次のように求められます。

  • 総所得金額等 = 収入金額 – 必要経費
  • 課税所得額 = 総所得金額等 – 所得控除

国民健康保険料

会社などで社会保険に加入していない方は、国民健康保険料という税金を市区町村に払うことで、国民健康保険に加入します。

国民健康保険料は、医療保険料、介護保険料(40歳から64歳までの方のみ)、後期高齢者医療制度保険料から構成されています。

構成するこの3つの保険料は、それぞれ、1世帯の構成員(例:世帯主、配偶者、扶養者)の所得割額、均等割額、平等割額の3つの税額の総和です。

国民健康保険料の所得割額は、住民税と同じ課税方式に基づいて計算されます。

  • 「申告不要」制度を選択した場合、
    • 上場株式等の譲渡所得等、および、配当所得等は国民健康保険の算定対象の所得には入りません。
  • 「総合課税」または「申告分離課税」を選択した場合、
    • 上場株式等の譲渡所得等、および、配当所得等(損益通算、繰り越し控除適用後)は国民健康保険の算定対象の所得に入ります。
ちょっとした豆知識(保険料の控除項目は限定的)

国民健康保険料の算定に使われる「算定基礎額」は該当年の総所得金額等から「基礎控除額」(33万円)を引いた金額になります。

「確定申告」での「所得税」や「住民税の申告」での「住民税」と異なり、国民健康保険の「算定基礎額」は「基礎控除」のみで、扶養控除、社会保険料控除、医療費控除などの各種控除が適用されません。

医療費の自己負担割合

70歳以上の医療費の自己負担割合(3割、2割、1割)などを決定するのに、住民税の申告された所得金額が用いられます。

医療費の自己負担割合の例
  • 6歳から70歳未満(課税所得の依存無し):3割負担
  • 70歳以上で課税所得が145万円未満の場合:2割負担
  • 75歳以上で課税所得が145万円未満の場合:1割負担

住民税を節約できる仕組み

「課税方式」選択肢

上場株式等の譲渡所得・配当所得がある場合、国税の「確定申告」、および、地方税の「住民税の申告」で次の3つの中から「課税方式」を選択することができます。

課税方式の選択肢
  • 「総合課税」
  • 「申告分離課税」
  • 「申告なし」(申告不要制度)

それぞれの「課税方式」の長所・短所の比較一覧

各課税方式の長所と短所をまとめると次の表のようになります。

  総合課税 申告分離課税 申告なし
所得税率

所得に応じた累進課税

15.315%

15.315%

住民税率 10% 5% 5%
配当控除 あり なし なし
借入金利子の控除 あり あり なし
上場株式等の譲渡損失との損益通算 なし あり なし
扶養控除等の判定への影響

あり

(合計所得金額に含まれる)

あり

(合計所得金額に含まれる)

なし

(合計所得金額に含まれない)

国民健康保険への影響

あり

(繰越控除後の金額で算定)

あり

(繰越控除後の金額で算定)

なし

(算定対象外)

「課税方式」選択の節税ポイント

税率への影響

住民税率は「総合課税」で10%と「申告分離課税」や「申告なし」の5%と比べて高いので、通常、「住民税の申告」で「総合課税」を選択するメリットはありません。

所得の算定対象と控除額への影響

「住民税の申告」で「申告分離課税」または「申告なし」のどちらを選択するかは、算定対象となる所得額と控除適用の可否の観点から、住民税や国民健康保険料などの地方税を総合的に考える必要があります。

  • 所得の算定対象
  • 控除適用の可否
    • 上場株式等の譲渡所得・配当所得の金額
      • 同年内の損益通算
      • 繰り越し控除

「課税方式」選択による「確定申告」「住民税の申告」での節税の方針例

所得税(国税)の確定申告では「総合課税」を選択して、住民税(地方税)の申告では「申告なし」(または、「申告分離課税」)を選択する。

所得税(国税)の確定申告では「申告分離課税」を選択して「損益通算」や「譲渡損失の繰り越し控除」を適用して、住民税(地方税)の申告では「申告なし」を選択する。

注意

「申告なし」を選択するには、証券会社の「源泉徴収あり」の「特定口座」で上場株式等の配当所得・譲渡所得等を運用している必要があります。

「住民税の申告」の手続き

市区町村によって必要書類やフォームに差異がありますが、一般的に「住民税の申告」には次が必要になります。詳細はお住いの市区町村の税務窓口、または、ホームページをご確認ください。

「住民税の申告」に必要な書類の例
  • 住民税(市民税・県民税)申告書
  • 上場株式等に係る配当所得等および譲渡所得等の課税方式選択申請書
  • 上場株式等の配当および譲渡に関する書類の写し
    • 例:
      • 特定口座年間取引報告書
      • 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
  • 所得税の確定申告書の控えの写し(確定申告済の方のみ)

まとめ

この記事では 、上場株式等の配当所得や譲渡所得がある方を主な対象として、「課税方式」を選択して「住民税の申告」することで地方税を節税する方法をご紹介しました。

国税である「所得税」と同じ所得額や世帯構成の情報を利用していても、「地方税」はお住いの都道府県や市区町村によって、計算方法や控除額が国税と異なる場合があります。詳細はお住いの市区町村の税務窓口、または、ホームページより地方税の記述やフォームをご確認ください。

この記事を参考にして、あなたの節税にお役に立てることを願っております。

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