2024年11月12日にはメジャー・アップデート・バージョンのWordPress 6.7が、2024年11月21日にはメインテナンス・バージョンのWordPress 6.7.1がリリースされ、更新ができるようになりました。
古いバージョンから新しいバージョンへアップデートしようかどうか迷っているあなた。
このシリーズ記事は、WordPressを新しいバージョンに更新する時期、手順、方法を、自力で解決できないような問題に会わずにWordPressのバージョンをアップデートした私の経験に基づいて解説しています。
「WordPressアップデート徹底解説」は4つの記事から構成されています。
- 【WordPressアップデート徹底解説①】更新する理由と時期
- 【WordPressアップデート徹底解説②】更新の長期ビジョン
- 【WordPressアップデート徹底解説③】更新のための確認と準備
- 【WordPressアップデート徹底解説④】更新と検証
第1回のこの記事では、まず、メリット(長所)とデメリット(短所)の両方の観点から、 WordPressをアップデートする理由を考えます。次にWordPressのマチュリティ(成熟度)を理論的にとらえて、アップデートするベストなタイミング(時期)の考え方を解説しています。
さあ、この記事を参考にして、あなたのWordPressのバージョン・アップにお役立てください。
WordPressをバージョンアップする理由
WordPressを他の人よりやや早めにバージョン・アップすることをおススメしています。
その理由は、バージョン・アップする長所と短所、また、バージョン・アップしないリスクといった要因を総合的に理解して、バージョン・アップして得られる市場競争力という価値を最大にできると考えているからです。
どのような要因を考えて、判断しているのかを次に解説していきます。
WordPressをバージョン・アップするメリット
WordPressをバージョン・アップする事で、どのようなメリット(長所)があるのでしょうか。
- サイトのパフォーマンスが向上
- 例)
- WebP(圧縮率の高い画像フォーマット)のサポート(WordPress5.8)
- PHP8への対応(最終段階)(WordPress5.8)
- PHP8への対応開始(WordPress5.6)
- 画像の遅延読み込み(Lazyload)機能による高速化(WordPress5.5, 5.7, 5.9)
- ページの表示スピードの高速化(WordPress5.4)
- 例)
- 最新セキュリティのサポート
- 例) 最新のセキュリティ・ホールへの対策機能
- アプリケーション・パスワードによる認証:開発者向け(WordPress5.6)
- プラグインとテーマの自動更新設定(WordPress5.5)
- 管理者メールアドレスの検証機能 (WordPress5.3)
- 例) 最新のセキュリティ・ホールへの対策機能
- 新しい機能で差別化でき、利便性が向上する。
- 例)
- エディタの設定がサーバーの保存され、ブラウザに依存しなくなる。(WordPress 6.1)
- フル・サイト編集(FSE: Full Site Editing) (WordPress 5.9)
- より豊富なブロックエディタ機能
- 検索エンジンと連携可能なXMLサイトマップをサポート(WordPress5.5)
- より豊富なブロックエディタ機能
- フル・スクリーンモード(WordPress5.4)
- グラデーション・カラーのサポート(WordPress5.4)
- 横幅2560ピクセル以上のサイズの画像対応 (WordPress5.3)
WordPressをバージョン・アップするデメリット
WordPressをバージョン・アップする事で、どのようなデメリット(短所)があるのでしょうか。
- 古いバージョンのソフトウェアがサポートされなくなる場合がある。
- Internet Explore 11(Microsoftのウェブ・ブラウザ)のサポート終了(WordPress5.8)
- WordPressに同梱されているJQuery(Java Scriptを簡単に記述するためのライブラリ)のバージョンアップによる未対応ソフトウェアへの影響(WordPress 5.6)
- 新しいユーザー・インターフェース機能や操作に慣れるのに時間が必要
- エディタ操作の変更で慣れが必要
- 新しい機能の信頼度や成熟度に不安
- 新しい機能を市場の環境で検証・改善するには人手と時間が必要
WordPressをバージョン・アップしないリスク
WordPressをバージョン・アップしない事で、どのようなリスクがあるのでしょうか。
- サイトのページ表示スピードの競争力が低下する
- セキュリティの脆弱性の問題が大きくなる
- 最新WordPressに対応するようにアップデートされなくなったソフトウェアの影響で、ソフトウェア間の標準環境のずれやインターフェースの不整合で機能不全が生じる
- ソフトウェア欠陥(バグ)が修正されない
WordPressバージョン・アップの判断
WordPressの成熟度を考慮して、バージョン・アップの価値を最大に利用できる時期にアップデートすることをおススメします。
その理由は、バージョンアップしないとリスクは徐々に大きくなっていき、バージョン・アップするデメリットは、次に解説しているようにWordPressの成熟度を検討したり、新しい機能を早期使用で慣れることで克服できるからです。
総合的なバランスを考えると、バージョン・アップするメリットが大きいと判断しています。
WordPressの成熟度とバージョン・アップするタイミング
信頼度成長・故障率曲線による成熟度と更新時期
バージョン・アップする最良のタイミングとは、不具合のピークを過ぎてから、不具合いが起きても自助努力で解決できる状況の時です。これで、不具合の少ない時期(故障率曲線で故障率が低く目で安定な時期:緑の矢印で表示されているLow Constant Failures)を有効に利用することができます。
一般に、多くの人が検証・改善に時間をかけると、マチュリティ(成熟度)が上がっていきます。
開発段階の検証・改善には、高度な専門知識が必要なので、製品(プロダクト)の設計者、または、開発者が携わる必要があります。リリース後の段階では、製品仕様を理解したユーザーが検証できるようになります。
検証・改善が進んで成熟度が上がってくると、検証できる人や機会が増え、不具合(Bugs)の数を統計的に取り扱って、次のように理論的に信頼度・故障率の傾向を曲線でとらえて成熟度を推定することができます。
信頼度成長曲線(不具合の累積数と時間の関係)は製品の開発段階で利用されるツールで、1つのテスト・サイクルでS字を描くことが知られています。
S字を描く理由は検証テスト数が増えていくと、それに応じて不具合が検出される数も増えていきますが、ソフトウェアの信頼度が上がってくると不具合を検出される頻度が下がってくるので、不具合のピーク(Failure Peak)を越えると、不具合の累積数が飽和点(Saturation Point)に達するからです。
一般的に、不具合の飽和点が見えてくると、その製品はリリースされます。
故障率曲線(Bathtub Curve)は、製品リリース後に使われるツールで、初期故障(Early Failures)、摩耗故障(Wear-out Failures)、不規則故障(Random Failures)の総和で構成され、次の3つのステージがあることが知られています。
- 故障が減っていく時期 (Decreasing Failures)
- 故障が低めで安定な時期 (Low Constant Failures)
- 故障が増えていく時期 (Increasing Failures)
このように、リリースされた製品では、ライフタイムの中央が故障が最も少ない時期なのです。
ソフトウェアにはハードウェアのように物理的な摩耗という現象が起こらないので、ソフトウェアのライフタイムの後期で故障が増えていくのが不思議に思われるかもしれませんが、それぞれ独立したアップデートなどでソフトウェア、ブロック、モジュール間の標準環境にずれやインターフェースの不整合が発生して、メインテナンスや更新をせずに放置しておくと不具合の数が増えていきます。
つまり、WordPressでもメジャー・バージョン・リリースのライフタイムの終わりの時期には、問題の発生が増加していくのです。
WordPressリリースによる成熟度と更新時期
WordPressはオープン・ソースのソフトウェア・プラットフォームです。コミュニティで多くのソフトウェア開発者や利用者が完成度を上げるために貢献しており、機能変更(追加・削除)、リリース、検証、改善のサイクルを繰り返していきながら成熟度が向上していきます。
WordPressではDevelopment CycleやRoadmapで開発スケジュールが公開されています。次のようにWordPress 6.0や6.1といったの正式リリース以前に6回以上、ベータ版やリリース候補版が出ています。それぞれのイベント・サイクルで、検証や問題解決の活動がされていて、信頼度成長曲線を描いています。
また、正式リリース後は、マイナー・バージョン・アップデートで初期不具合を減らしながら、故障率曲線に沿って推移していきます。
Key Events | Date |
WordPress 5.3 Release | 12 Nov. 2019 |
WordPress 5.3.1 Release | 14 Dec. 2019 |
WordPress 5.3.2 Release | 18 Dec. 2019 |
WordPress 5.4 Release | 31 Mar. 2020 |
WordPress 5.4.1 Release | 29 Apr. 2020 |
WordPress 5.4.2 Release | 10 Jun. 2020 |
WordPress 5.5 Release | 11 Aug. 2020 |
WordPress 5.5.1 Release | 01 Sep. 2020 |
WordPress 5.5.2 Release | 29 Oct. 2020 |
WordPress 5.5.3 Release | 30 Oct. 2020 |
WordPress 5.6 Release | 08 Dec. 2020 |
WordPress 5.5.1 Release | 03 Feb. 2021 |
WordPress 5.5.2 Release | 21 Feb. 2021 |
WordPress 5.7 Release | 09 Mar. 2021 |
WordPress 5.7.1 Release | 15 Apr. 2021 |
WordPress 5.7.2 Release | 12 May 2021 |
WordPress 5.8 Release | 20 Jul. 2021 |
WordPress 5.8.1 Release | 08 Sep. 2021 |
WordPress 5.8.2 Release | 10 Nov. 2021 |
WordPress 5.8.3 Release | 06 Jan. 2022 |
WordPress 5.9 Release | 25 Jan. 2022 |
WordPress 5.9.1 Release | 22. Feb. 2022 |
WordPress 5.9.2 Release | 11 Mar. 2022 |
WirdPress 5.9.3 Release | 05 Apr. 2022 |
WordPress 6.0 Release | 24 May 2022 |
WordPress 6.0.1 Release | 12 Jul. 2022 |
WordPress 6.0.2 Release | 30 Aug. 2022 |
WordPress 6.0.3 Release | 17 Oct. 2022 |
WordPress 6.1 Release | 01 Nov. 2022 |
WordPress 6.1.1 Release | 15 Nov. 2022 |
WordPress 6.2 Release | 29 Mar. 2023 |
WordPress 6.2.1 Release | 16 May 2023 |
WordPress 6.3 Release | 08 Aug. 2023 |
WordPress 6.3.1 Release | 29 Aug 2023 |
WordPress 6.4 Release | 07 Nov. 2023 |
WordPress 6.4.1 Release | 09 Nov. 2023 |
WordPress 6.4.2 Release | 06 Dec. 2023 |
WordPress 6.4.3 Release | 30 Jan. 2024 |
WordPress 6.4.4 Release | 09 Apr. 2024 |
WordPress 6.5 Release | 02 Apr. 2024 |
WordPress 6.5.2 Release | 09 Apr. 2024 |
WordPress 6.5.3 Release | 07 May 2024 |
WordPress 6.5.4 Release | 05 Jun. 2024 |
WordPress 6.5.5 Release | 24 Jun. 2024 |
WordPress 6.6 Release | 16 Jul. 2024 |
WordPress 6.6.1 Release | 23 Jul. 2024 |
WordPress 6.6.2 Release | 10 Sep. 2024 |
WordPress 6.7 Release | 12 Nov. 2024 |
WordPress 6.6.1 Release | 21 Nov. 2024 |
WordPress 6.8 Release | Apr. 2025 Planned |
WordPress 6.9 Release | Jul. 2025 Planned |
WordPress 7.0 Release | Nov. 2025 Planned |
参照)
ベータ版やリリース候補版が推奨環境下で検証され、すでに見つかった致命的な問題は解決されてるので、メジャー・バージョンの正式リリース後は一般ユーザーがテスト・ウェブサイトを用意してチェックする必要はありません。
一方、WordPress上級者(設計者や開発者に近い技術力の保有者)で、正式リリース前のベータ版やりリリース候補版を試す場合は、テスト・ウェブサイトを作って、致命的な問題が起きないことをチェックすることをおススメします。
WordPressの統計情報による成熟度と更新時期
新しくリリースされたプロダクトを採用する場合、プロダクトの成熟度を考慮してアップデートするかタイミングを決断しなければなりません。そこで、プロダクトの統計的な情報を使って、そのプロダクトの成熟度と更新時期を推定します。その理論と具体例を解説していきます。
イノベーションの普及プロセス理論(Diffusion of Innovations)では、新しいプロダクトがリリースされた時、次のように採用が早い順に5つのグループが一定の割合で存在するとされています。
イノベーターやアーリー・アダプターといった早期に採用するグループは、チャレンジ精神が旺盛で、他者との差別化に価値を見出すハイ・リスク、ハイ・リターンのタイプです。
これとは逆に、ラガードのように遅い時期に採用するグループは、他者と同様に行動して安定を好むロー・リスクのタイプです。
WordPressバージョンのデータを例として、属しているグループを具体的に考えてみましょう。
WordPressの最新正式リリースに更新する際、WordPress市場でどのバージョンがどれくらいの割合で使われているかをWordPressの統計情報(下線部をクリック)で調べることができます。
例えば、2020年03月31日にWordPress 5.4の正式版がリリースされた時は、時間の経過で次の統計データが得られています。
また、2019年11月12日にWordPress 5.3の正式版がリリースされた時は、時間の経過で次の統計データが得られており、WordPress 5.4と同じ傾向を示しています。また、データはこの記事にアップロードしていませんが、この傾向はWordPress5.5でも同じでした。したがって、この傾向はバージョンの依存性が少なく、新しいWordPressアップデートがリリースされた時に、時間経過で同じ現象が起きると考えられます。
- WordPress 5.4リリース後、3日目(2020月04月02日)では、
- WordPress 5.4を利用しているサイトは1.7%
- この時期にバージョンアップするのはイノベーター(早期採用する2.5%)といえます。
- WordPress 5.3を利用しているサイトは43.8%
- WordPress 5.4を利用しているサイトは1.7%
- WordPress 5.4リリース後、5日目(2020年04月04日)では、
- WordPress 5.4を利用しているサイトは11.1%
- この時期にバージョンアップするのはアーリー・アダプター(早期採用した2.5%の次の13.5%)といえます。
- WordPress 5.3を利用しているサイトは34.9%
- WordPress 5.4を利用しているサイトは11.1%
- WordPress 5.4リリース後、34日目(2020年05月03日)では、
- WordPress 5.4を利用しているサイトは26.2%
- この時期にアップデートするのは アーリー・マジョリティ(早期採用した2.5%+13.5%の次の34%)といえます。
- WordPress 5.3を利用しているサイトが23.8%
- WordPress 5.4を利用しているサイトは26.2%
すでに解説している信頼度成長曲線にそって考えてみると、より多くの人が利用するということは検証数が増えているのと同じで、プロダクトの成熟度が低いと不具合数の報告も増えていくはずです。一方、プロダクトの成熟度が高くなってくると、検証数の増加に依存せず、不具合の報告は低め安定になるのでしたね。
アーリー・マジョリティは16%(= 2.5% + 13.5%) から50%(= 2.5% + 13.5% + 34%) までの間のグループなので、検証数は十分なはずです。
WordPressの最新バージョンへのアップデートに関する不具合の報告がインターネット上で多く見つけられないのは、普及状況が十分でないか、または、成熟度が既に上がっている場合です。
成熟度が十分な段階に入ると、次の追従者(例えば、レイト・マジョリティやラガーズ)を呼び込むことになり、WordPressを使ったブログ・サイトとしてバージョン・アップによる差別化は難しくなってくるのです。
このように統計データを調べて、不具合いが起きても自助努力で解決できるあなたの能力に対応して、あなたがどのグループに属しているかを考えることによって、プロダクトの成熟度やバージョンアップすべき時期を決めることができるのです。
私のバージョン・アップのおススメの時期はアーリー・アダプター期です。
理由は、WordPressのバージョン・アップの利点を生かして差別化でき、不具合が最も少ない時間を最大に利用できるからです。
新しいWordPressの正式リリース後、急速にアップデートするサイトが増え、およそ1週間後にはアーリーアダプター期に入り、アップデートによる不具合情報・解決方法がインターネット上で見られるようになります。この頃には、最新のWordPressのバージョンに対応したテーマやプラグインがユーザーで検証済みの状況になるので、テーマやプラグインのバージョン・アップも併せて行いましょう。
約1ヶ月後にはアーリー・マジョリティ期に達しています。この頃は、きちっとメインテナンスが行き届いているウェブ・サイトはバージョン・アップが終了して、不具合の対処方法も情報がインターネット上で豊富にある状態になります。
今後も、メジャー・バージョンがリリースされた時には同様な現象が起こると考えられるので、この記事でご紹介した考え方を参考にバージョンアップする時期を決めてください。
まとめ
この記事では、WordPressをバージョン・アップするメリット、デメリット、リスクをそれぞれをリストアップして考察して、総合的にバージョンアップする時期を判断する方法をご紹介しています。
バージョン・アップすべきタイミングを定めるため、製品の成熟度を不具合の数の発生傾向からとらえ、製品開発時の信頼度成長曲線、リリース後の故障率曲線を解説しました。また、イノベーションの普及プロセス理論を解説して、統計的な情報を使って、問題適応力が異なる人々がどのグループに属して、どの時期に適応しているのかを具体例で説明しました。
不具合が最も少ない時期を最も長く利用するという考えから、ベストなタイミングを「不具合のピークを過ぎてから、不具合いが起きても自助努力で解決できる状況の時」と定め、アーリー・アダプター期でアップデートすることをおススメしています。
WordPressの成熟度を理論的に考え、アップデートすべき時期が見えてきたので、次はWordPressのシステム要求から構成要素技術のロードマップを理解して長期的な視点でアップデートをとらえてみましょう。